雑記
2024.03.31

ルーティンの効用

ちょっと古い話ですが、元野球選手のイチローさんの毎朝同じカレーを食べるというルーティンが話題になったことがありましたね。

臨床スポーツ心理学者の先生によると「彼のルーティンというのは基本的に、いかにして“ノーストレスな状態”を作り出すかということのために行なわれています。強いストレスがかかる野球に集中するため、それ以外の生活ではストレスをなくしたいという考え方ですね」とのこと。

1日の生活は「何を食べるか」「何を着るか」「どこに行くか」など小さな選択の連続ですが、この積み重ねが案外大きなストレスになるので、仕事上大きなストレスがかかる人は予め決めたルーティンを守っている、という話ですね。例えばスティーブ・ジョブズがISSEY MIYAKEの黒タートルネック、LEVIS 501のジーンズ、NEW BALANCE N992のスニーカーを毎日身に付けていたとか、デザイナーの佐藤ナオキさんのランチは、毎日同じ店の同じそばを同じ席で、とかいうのは有名ですね。私はこの説に倣ったわけではないのですが、朝食・昼食は毎日ほぼ同じもの、診察の時の服装もシーズンに合わせて2-3着を着回すだけですが、考えてみると本当にラクです。

このようにルーティンによるストレス低減効果というのは確かにあると思いますが、イチローさんのことで考えると、きっとそれ以上の効果を狙っていたはず、と考えるようになりました。

スポーツ選手は体調をキープするために相当気を配っていると思いますが、それでも頭が痛かったり、お腹をこわしたり、よく寝られなかったり、その日その日の変化というのはあるはずです。あと、逆に体調は絶好調なのに何故かヒットが打てないとか。

そういった日常のノイズが生じた場合、プロは必ず原因を分析すると思うのですが、毎日の生活そのものの変化が大きいと分析すべき要素が多すぎて、結局何が悪さをしていたのか分からなくなってしまいます。反対に毎日をルーティンに従って過ごしていれば、例えば急に頭痛がしたときに「昨日はもらったチョコレートを食べたな」など何か変わった点を特定しやすいので、「チョコレートが頭痛の原因かもしれない」などと分析がしやすくなります。

患者さんとお話ししているとき、体調の変化があった時はどんな状況だったのかしつこく聞いていますが、それは同じ症状でも状況によって使うお薬が違ってくるからです。患者さんのお話がぼやけていると診断も曖昧になり、適切なお薬を出せない可能性が高まります。

なので、特に体調が悪い時には生活はできるだけシンプルに、規則正しいリズムで過ごしていただくことをお勧めします。そうした中で自分の体調変化の原因が掴めれば、お薬に頼らなくても自分でコントロールすることができるようになります。

今はいろんなところに情報が溢れていて、雑誌に「あの人のモーニングルーティン」なんて特集があるとつい見てしまいますね。でも何をルーティン化するのか情報を集めるよりも、毎日の自分の体調を見極めることが肝要です。そして体調が悪い時は、食べ物、薬、サプリメントなど何か「良さそうなものをとり入れる」ではなく、薄々思っている何か「良くなさそうなことを一つ止める」方がうまくいくことが多いものです。例えば、世間では「ヨーグルト=腸活の基本」みたいなことになっていますが、ヨーグルトを止めて排便が改善した人もたくさんおられます。巷の情報に惑わされず、自分の体を向き合って判断してください。

止めるのは一つで構いません。2週間くらい続けてみて改善がなければ、今度は違うことを一つ止めてみる、そうやって順々に試していくと必ず何か発見があります。

明日から4月。新年度ですね。新しい気持ちで自分の体と向き合ってルーティンを書き出してみる、あるいは、無意識にやっていたことを一つ止めてみる。ぜひトライしてみてください。