更年期の症状の一つに、「思いもよらないようなミスをする」「仕事が遅くなった」「新しいことが覚えられない」といったお仕事上のお悩みがあります。
なかには「認知症でしょうか」と不安顔で受診される方もいらっしゃいますが、自分の判断で当院を受診する力がある時点で、アルツハイマー型認知症などの疑いはまずありません。
でも、必ず見られる共通点があります。
このような症状で受診される方に詳しくお話しを聞いていくと、たいていの場合、睡眠不足+栄養不足に陥っています。特に仕事を持って家族と住まわれている方などは、朝早く起きて子どもの弁当と朝食を作り、夜は遅く帰ってくる夫のために食事の用意をする、といったハードワークをこなしつつ、自分の時間はないので朝食は出勤中の車のなかでおにぎりを一つ、なんてことも珍しくありません。何年もそのような生活をしてきて、ご本人はそれが当たり前と思っているのですが、実際は心や体には相当の負担がかかっている。そんな患者さんをたくさん拝見しています。
さて、この状態を漢方の言葉で言い換えると、栄養不足による血虚に陥っているところへ、陰が養われるべき夜に眠っていないことで陰虚も併発している(血虚が悪化している)、となります。
血虚は集中力を低下させるので、当然、仕事の効率は当然悪くなります。また、血虚が進むと心煩(心のザワザワ)を引き起こし、ただでさえ少ない睡眠の質を低下させ、さらに集中力が保てなくなるという悪循環に陥らせます。ちなみに、血虚のためにお肌はカサカサ、髪はパサパサといった見た目上の変化も急に目立つようになります。
そして、このような仕事も家庭もバタバタの時期が更年期(≒閉経)と重なるということは、実は良いことでもあります。月経の出血がなくなることで血虚の悪化を抑えることができるからです。何かと悪者にされる更年期ですが、50歳くらいで急に月経を止めるということは、この先健康に年をとっていくためにむしろ必要なこと、神の采配であるような気がします。実際に、閉経によって血虚が改善し元気になっていく方はたくさんいらっしゃいます。
はい、ここまでの話を一度まとめますと、更年期のケアレスミスの原因は栄養不足+睡眠不足ですので、まずは生活習慣を見直しましょう。それでもだめなら漢方で血虚を補う治療を追加しましょう。閉経したら少しよくなるから、あまり悲観せずに行きましょう、となります。
それから、とても大事なことを一つ追加します。それは、更年期は自分への期待(ハードル)を少し下げること。みなさん「前はこんなミスはしなかった」と言って嘆かれますが、若い時の自分と勝負しても勝つことはありませんのでこれは止めます。
わたしは最近は自分をおばあちゃんとして認識するようにしています(実際、同級生には孫がいる人もいます)。自分をおばあちゃんと思えば、多少ミスをしても「まあ、おばあちゃんの仕事ならこれくらいでしょう」「いやいや、おばあちゃんとしてはよく頑張っているわ」とむしろ自分を褒めてあげたくなってきます。(私の仕事のミスはスタッフがカバーしてくれていますのでご安心を)
自分への期待値を上げて、高い目標に挑戦するのももちろん素晴らしいですが、更年期は期待値を下げてストレスフリーに生きるのも悪くないですよ。真面目な日本の女性は、そのくらいでちょうどいいと思います。