さて、前置きが大変長くなりました。ここから漢方での五臓の働きで独特なものを紹介したいと思います。
感情のことです。
現代医学では感情は脳の働きということになっていますが、漢方では感情は五臓にそれぞれ納められました。私もそこそこの年齢になりましたので、そこそこの経験をしました。みなさん失恋して胸が苦しくなった事はないでしょうか。私のそこそこの経験の中にももちろんあります。苦しかったのは脳ではなかったと思います。そんな素直な体験から感情は臓器に納められていると昔の人は洞察したのだと思います。
漢方での感情は怒、喜、思、悲、驚と五つに分けられます。それぞれがどの臓器に納められているか、この話は漢方を勉強して初めて知って、漢方の醍醐味を感じた興味深いものです。
五臓と感情の関係は、怒ー肝、喜ー心、思ー脾、悲ー肺、腎ー驚、とされます。
まず、思ー脾。漢方での脾臓は消化機能をコントロールする働きがあります。実際の解剖で見ても胃の真横にあり、そう言われるとそんな感じします。「思」は思慮という言葉に置き換えると分かりやすいと思います。消化器の調子が悪い方は、思慮が思うようにいかなくて優柔不断になることがあります。また逆に物事を思い悩んでいると食欲がわかないし、胃もたれしやすくなります。学校に行くのが嫌だと登校時間にお腹が痛くなるということも、漢方的には不思議はありません。
次に怒ー肝。漢方に「抑肝散」という薬があります。そもそもは小児の引きつけなどのために作られた薬ですが、大人にも応用されるようになりました。怒りっぽい認知症の方に多く使われています。怒りを抑えるためですが、肝を抑えて怒りを鎮める訳です。女性の方で生理の時にイライラで困る方がいらっしゃいます。肝は漢方的に血液の量を調節しているのですが、生理での一過性の出血で肝の働きに支障がきてしまい、そのためにイライラすることがあります。このような方には肝臓に配慮した薬を使う必要がある訳です。
社長さんや政治家の方は決断力が必須。このような方たちは食欲旺盛でお酒も強いイメージありますね。あえて言う必要もないですが、「ドラえもん」で言うと脾臓が弱いのがのび太くん、強いのがジャイアンです。でも、ジャイアンはすぐに怒るので、肝の病、血液のめぐりに注意が必要かもしれません。
心臓と喜。あまり意識しないところですが、心臓の生理機能が高まっているのは10代後半です。10代後半は「箸が転んでもおかしい年頃」、恐らく若い人には通じないこの言葉は、漢方では心臓機能の過剰と理解されます。心臓は精神症状全体の安定にも関係しているので、情緒が不安定な場合は、治療に際して心臓のことを念頭におくことになります。
また機会を見てコラムで書きたいと思いますが、臓器と感情はある法則を持ちながら密接に関係しています。そのため感情の乱れに対する治療では、色々な臓器の絡みを紐解く必要があることもあります。
今回はざっくりとそれぞれの関係を少し説明させて頂きましたが、感覚的に分かりにくい肺、腎のところは端折らせて頂きました。リクエストがあれば、こちらも改めてコラムで取り上げたいと思います。
今回もお付き合い頂きありがとうございました。(拓也)