漢方豆知識
2020.09.07

二つと五つ 〜後編〜

紀元前の昔から、人間は自然界を構成するの根源物質について洞察を深めていきました。古代ギリシャでは「風」「土」「水」「火」の四つの元素が提唱され、その後は西洋全体に広まっていきます。しかし中国では「木」「火」「土」「金(金属)」「水」の五つを根源物質と考えました。惑星が五つあることが強い影響を与えたのだと思います。天を支配している法則は自然界にも当てはまる。そう考えて世界を合理的に説明しようとしたのが中国での考え方だったのです。この五つは根源物質というだけではなく、密接な繋がりがあります。木は火で燃やされると土になり土の下で金属が結晶を作り、その金属には水が集まります。そして水があるところに木が生えて…。密接な繋がり、循環(木→火→土→金→水→木)もこのように説明できます。

そして、木・火・土・金・水、ぞれぞれの性質に合わせて、様々な事象を五つに分けていきます。

例えば季節はどうでしょうか。いま、季節は春夏秋冬の4つしかありませんが、「土用丑の日」を聞いたことがあると思います。この「土用」は夏にだけあるのではなく、全ての季節の分かれ目の18日間(立春、立夏、立秋、立冬の前18日間)を言います。土用も季節に入れて五つの季節で、木-春、火-夏、土-土用、金-秋、水-冬となります。方角や色も、木-東-青、火-南-赤、土-中央-黄、金-西-白、水-北-黒、としました。平城京や平安京の南面にある正門を朱雀門と言います。朱雀は南を守る神獣のこと。このように色と方角に五行論が取り入れられています。

少し話が逸れますが、神獣には他にも方角と関係して作られています。東は青龍、西は白虎、北は玄武、中央は麒麟です。聞いたことがある言葉もあったと思います。白虎隊はここから名前が取られているし、玄武岩という石の名前にも関係があります。漢方薬にも小青竜湯や大青竜湯、白虎湯などの神獣の名前が入った薬があります。 

さて一方、人の体の中を見ていくと、解剖した人の臓器から五つの臓器が見つかりました。この発見は衝撃的だったと思います。五つということは自然、宇宙を支配している法則、五つある根源物質の考え方で、人間の生命活動をも説明できるに違いない考えました。そして、入念な検討をして、木-肝、火-心、土-脾、金-肺、水-腎という繋がりを発見していきます。少し難しい言葉で「天人合一(てんじんごういつ)」という言葉がありますが、宇宙、自然界の法則で人の生命活動を説明できるというものです。五つの惑星、五つの根源物質、それと五つの臓の発見。自然法則を理解することで生命活動を理解し、医学を作り上げていきました。臓にも肝(木)→心(火)→脾(土)→肺(金)→腎(水)→肝(木)→…、という循環があり、実は前段で取り上げませんでしたが、肺(金)→肝(木)→脾(土)→腎(水)→心(火)→肝(木)→…、という相互に制約する関係もあります。ここからストレスによって食欲が減ってしまうというようなお話の展開ができるのですが、また詳しいことは新しいコラムで書かせて頂きます。

「二つと五つ」、少し難しい内容になってしまいました。当てはまらないなぁ、ということもたくさんあり、日本では江戸時代に空理空論として疎んじる漢方医も出てくるようになりました。それでもちょっと面白い見方、というスタンスでコラムでご紹介してみました。今回もお付き合い頂き、ありがとうございました。(拓也)