漢方症例集
2021.02.01

不安はどこから?

「感情の居場所」のコラムを書いた後、ありがたいことに色々と反響を頂きましたが、その中の一つに「先生、不安はどこから来るのですか?」という質問がありました。

ちょうど先ごろ不安の治療が終了した方がいらしたのですが、コラムのことをお話したらご紹介することを快諾して下さいましたので、具体例も交えてお話しさせていただきます。

「不安」とはどこから来るのでしょうか。どこから、というと厳密には難しいのですが、強く関係しているのは「血」と「心」になります。

「血」が足りなくなる、また「血」が足りなくなり「心」のコントロールが不安定になると不安な気持ちが強くなり、「心」のコントロールが不安定になればなるほど症状は強くなります。女性には月経があり、その時一過性に「血」の不足が起こります。月経に関連した不安はここに原因があることがあり、元々「血」の量がギリギリの方は、月経の出血で不安感の症状が起きやすくなります。

反対に不安に強いタイプの方もいます。このタイプの方を見ていくことで、不安に対する考え方もより深まると思いますので紹介します。

一つは「肝」がしっかりしているタイプの方。漢方でいう肝臓は理性の働きを持っています。

「肝」の働きがしっかりしていると、不安に対する理性的な対応ができます。不安の原因を突き止めて不安そのものを解決したり、予め予測できることであれば不安を予防したりできるので、「血」や「心」に多少のトラブルがあっても「肝」の力で踏ん張ることができます。「肝」のしっかりしてそうな人、例えば大阪府の吉村府知事はそんなタイプな印象です。

もう一つ不安に強いタイプは、「脾」のしっかりしている方。不安そのものがあまり気にならないタイプの方です。気持ちが大らかで、大体のことは食べて寝れば何とかなる!という感じ。「脾」の働きは、西洋医学でいう消化器系のことになりますが、朝から焼肉を食べられるような「脾」の強い方は、「血」の不足に陥りにくく不安には強い訳です。ふっくらした癒し系の方が多いように思います。芸能人であれば出川さんやホンジャマカの石塚さんという感じでしょうか。

 

今回の症例は40歳前後の男性の方です。ウインタースポーツや山登りなどを趣味にされている、アウトドア派の男性。

天候の悪い時に生じる不安感と睡眠時の中途覚醒を主訴に来院されました。4月頃に大切なお祖父様を亡くされたことが直接の原因になったようで、その後精神科を受診し通院されていました。すぐに良くなると思っていらしたようですが、改善の兆しがなく、そのことで更に不安になり、9月に奥様の勧めで受診下さいました。

色々とお話を伺っていると、穏やかな優しい方で、こちらからの色々な問診にも丁寧に答えて下さいました。天候が悪い時の不安でしたので、「血」の問題だけかはもう少し検討が必要でした。また中途覚醒があり、ここは「心」の不安定さがあるのか考える必要がありましたが、動悸など「心」に関連する症状はなく、「心」までの配慮は必要なさそうでした。

診察してみると、皮膚や髪の毛が乾燥気味でやはり「血」が足りていない状態でした。「血」は栄養たっぷりの液体ですので、足りなくなると爪や皮膚、髪の毛にまでその影響が出てきます。またお腹が少し弱っており、「気」の不足もあるようでした。よく伺うと食べ過ぎると調子が悪くなるので、食事量を減らしているとのこと。消化不良からくる「気」の不足も「血」の不足を更に促します。また悪天候時の不調なので、気象病の配慮もしつつ漢方薬を選びました。精神科にはきちんと通院するようにお願いし、3週間ほどの内服でひとまず様子を見させて頂きました。

2回目の診察の時には改善を実感され、その後は精神科の薬は精神科の先生の指示に従って減量されていきました。11月下旬には趣味の山登りもできるようになり、1月に不安の治療は終了となりました。今年はとてもたくさん雪が降ったのでウインタースポーツも楽しまれると思います。

 

気をつけて頂きたいのは、この方の場合、精神科の薬の併用があって漢方の効果も得られたことです。

ごく軽度のものであれば漢方薬だけでの治療もスムーズにいきますが、精神的なところは中々難しいこともあり、こちらから精神科や心療内科への専門医へ紹介させて頂くこともございます。どうぞご理解のほどよろしくお願い致します。(拓也)