加味逍遙散は生理痛に効果がありますが、いわゆる月経前症候群を伴う場合に使われやすいお薬です。
生理前になるとイライラしたり、落ち込んだり、気分の浮き沈みが強くなる。物足りなさを食欲を満たすことで埋めようとして、体に悪いと分かっているスナック菓子を気持ちが悪くなるまで食べてしまう。そんな方によく合います。
そもそもは逍遙散というお薬があって、そこに牡丹皮と山梔子を足すとこのお薬になります。「逍遥」という言葉は「坪内逍遥」くらいでしか聞きませんが、「気ままにあちこち歩き回ること」という意味があり、患者さんの症状が定まらない様子から名付けられたと言われています。現代風に言えば「不定愁訴薬」という感じ。なんとなく失礼な名前ですね。
加味として加えられた牡丹皮と山梔子はどちらも体を冷ます方に傾けるので、本来はのぼせのような症状もある人が適応ですが、エキス剤には加味逍遙散の方しかないので、強い冷えがなければ使うこともあります。
加味逍遙散を特徴づける生薬は柴胡です。柴胡は長引いた風邪で熱がこもっているような時に使いますが、「ストレスにやられて・・・」という時にも登場することが多い生薬です。なので、学生の方にももちろん使うのですが、「社会人になってから」とか「職場の異動をきっかけに」とかいう形で生理痛が出てきた方には、柴胡の入った加味逍遙散を選択肢に考えます。
誤解を恐れず言えば、総合病院に勤務していた頃は「この職場にいるほとんどの女性は加味逍遙散の適応だな」と思っていました。「ミスができない」という緊張感の下で時間に追われながら仕事をし、家に帰れば家事をして・・という生活で、「イライラしないで」というのはほぼ不可能。そんななか心の隙間を埋めるカップラーメンにのびる手、これを引っ込めさせる力が加味逍遙散にはあります。
なにを隠そうほとんど私のことですが、自分ではイライラしている自覚は全くありませんでした。生理前になると夜に何か食べたくなるのは「これから出血するから体が栄養を蓄えようとしているのか?」なんて思っていましたが、足りないのは「心の栄養」だったんですね。これに気づいてからは加味逍遙散を飲むようにして、翌朝の胃もたれによる自己嫌悪から解放されました。
心当たりのある方にはぜひ試して欲しいお薬です。