同じ鼻水でも鼻の下に流れ出るものと喉の奥に垂れ込むものがあり、後者を後鼻漏(こうびろう)と言います。ただ、一口に後鼻漏といっても寝た時にだけ生じて咳込みを起こすこともあれば、一日中垂れ込んで痰が喉の奥にへばりついているような不快感を起こすこともあり、その症状は人により様々です。
そして、喉の奥に痰がへばりついて不快感を伴う場合は、鼻というよりも上咽頭に問題がある可能性があります。今回はそのお話。
ややこしいのではじめに鼻から上咽頭の構造について説明しますね。鼻というのは外からみるより複雑な構造をしてまして、いわゆる鼻の穴の奥には三段の軟骨構造(鼻甲介)があって、吸い込んだ空気をちょうど良い温度や湿度にする役割をしています。ついでに補足すると、ここの軟骨の粘膜に炎症が起こると不必要に鼻水が流れたり、空気が通る隙間が狭くなって鼻詰まりになったりします。
上咽頭はそこからさらに奥に入って口と繋がる辺りの名称で、ここには耳に繋がる穴も開いています。ですからここら辺に炎症がおこると口や鼻の症状の他に、耳鳴りやめまいといった耳の症状も引き起こされることがあります。
そういう意味で上咽頭炎は複雑な病気なのですが、耳鼻科の先生の本を読むと上咽頭炎は自律神経の異常も誘発することがあり、「全身倦怠感、めまい、睡眠障害(不眠・過眠)、起立性調節障害、記憶力・集中力の低下、過敏性腸症候群(下痢・腹痛など)、機能性胃腸症(胃もたれ、胃痛など)、むずむず脚症候群、慢性疲労症候群、線維筋痛症など」と関連するとあります。
これだけ読むと本当に?と思いますが、当院にみえられる患者さんを拝見していると、実際自律神経失調症状を伴う方が少なくありません。その理由については未解明ですが、漢方的に解釈するとうまく治療できることがあります。
「朝の鼻水」のコラムで、慢性鼻炎の治療に風邪の漢方薬を使うというお話をしましたが、漢方で風邪を治療する際には、風邪が身体のどこまで侵入しているかを見極めて薬を決定します。先のコラムでご紹介した小青竜湯は、まだ鼻先、つまり身体の表面に近い部分(漢方では「表(ひょう)」といいます)に病気が留まっているときに使うお薬です。風邪で嘔吐や下痢を起こすと、病気が腹部臓器(漢方では「裏(り)」といいます)まで達したと考えて別なお薬に変わってきますが、鼻水もでるけどちょっと気持ちも悪いというような微妙な状態(漢方では「半表半裏(はんぴょうはんり)」といいます)もあって、これにはまた違う薬が用意されています。
解剖学的に上咽頭という場所はちょうど半表半裏にあたると考えて、そこで使う風邪の漢方を最近よく上咽頭炎に用いていますが、うまく治る方が多いです。そして、ここが面白いところですが、半表半裏に使う漢方薬はそもそも更年期障害の自律神経失調症状の薬でもあるんです。鼻水を治すつもりが不眠症までよくなった、などということは珍しくありません。漢方はほんとに奥が深い!このお話も詳しくしたいのですが、また長くなりますので別の機会にいたしましょう。