新年1回目は、幸福について考えます。
待合室に「精神科医が見つけた3つの幸福」という本を置いていますが、手に取られた方いらっしゃいますでしょうか。なかなか面白い切り口の本ですので、今回私なりに噛み砕いてご紹介してみようと思います。
この本がいう3つの幸福とは、ドーパミン的幸福、セロトニン的幸福、オキシトシン的幸福。ドーパミン、セロトニン、オキシトシンは全て脳内の伝達物質で、幸福ホルモンとも呼ばれます。これらが脳内にたくさんあれば幸せということですが、人生のステージでその重みも変わってきます。
若い時代に一番求めがちなのは、ドーパミンですね。一言で言えば、「ドキドキ・ワクワク」するときに出るのがドーパミンです。試験に合格した、試合に勝った、恋人ができた、仕事で成功した、そんな経験をするとドバッと出てきて、私たちの胸を躍らせます。あなたがこれまでで一番輝いたのはいつだったでしょう。そのときドーパミンはあなたの脳内に満ち満ちていたはずです。
でも、35歳も過ぎてくると、ドーパミンが出るような経験はだんだん減ってきます。むしろドーパミンを出すなんて疲れる、静かに部屋で休んでいたい。そんな心境にもなってくるものです。以前は情熱を燃やしていた推し活も楽しめなくなり、「私の人生には、この先あのような情熱は帰ってこないのか」と淋しい気持ちにもなります。(まあ年齢で区切る必要もないのですが…。先日は16歳の患者さんが「私はもう老いた」と言っててびっくりしました)
でも、大丈夫です。ドーパミンに疲れたあなたの脳内ではセロトニンとオキシトシンが活躍します。
セロトニンは、一言で言えば「あー、気持ちいいー」となったときに出るホルモンです。朝晴れている、新しい下着に着替えた、花がキレイに咲いている、今日は頭痛がしない。そんな日常にあふれるちょっとした「いいこと」がセロトニンを増やします。下着を取り替えれば気持ちがいいのは当然のことですが、大切なのはそれを当たり前として通過せず、いちいち噛み締めて味わうことです。例えば、「洗濯したての下着って最高ね」「今日は晴れてて気持ちがいいわ」「なんてかわいい花なんだろう」「体調が良くて爽快だわ」と口に出して言ってみる。腹式呼吸をするとセロトニンが出ると言われますが、「ああー、深い呼吸ができて気持ちがいい、幸せだわー」と思いながら呼吸を繰り返えす。そんなことでセロトニンの分泌はさらに増えて、日常の幸福感を高めます。
最後のオキシトシンは「つながり」を感じるときに出るホルモンです。2020年9月16日のコラムで、「40歳代のときに、家族や友人関係に限らず、コミュニティにおいて良好な人間関係を築いていた人が、健康で幸せな老後を迎えていた」という研究結果についてご紹介しましたが、これがまさにオキシトシン的幸福だと思います。オキシトシンは人との交流、スキンシップ、ペットとの交流などにより分泌されると言われています。ペットを飼っていない方は、人との交流と言われても何をしたらいいか分からなくなりそうですが、いい方法があります。それは人に親切にすること。ボランティア活動のような大袈裟なことに限らず、例えば人に道をゆずるとか、人が落としたものを拾ってあげるとか、家族に感謝の言葉を言うとか、そんな簡単なことでもオキシトシンは分泌されます。「情けは人のためならず(=自分のため)」ということですね。
セロトニンやオキシトシンは抗ストレス効果があると言うことで、サプリなど商品化の試みもされています。漢方薬では加味帰脾湯がオキシトシンの分泌を増やすという仮説のもと、研究がされていた時期もありました。今のされているのかな?
でも、ここまで見てきたように、セロトニンやオキシトシンは「当たり前のことを当たり前と思わず、まわりに優しく、感謝して暮らす」それだけのことで増やすことができます。これまでの人生がドーパミン的幸福に乏しかったとしても、日々の小さな幸せを拾うことができるなら、これからははっきり言って無敵です。2023年があなたのセロトニン・オキシトシン元年になりますように。私もコラムを続けてオキシトシンを出していきます!