まもなく夏本番。「体重を減らしたい」というご相談が増えてきました。
防風通聖散はナイシトール、コッコアポAなどという名前で市販されており、コマーシャルなどから痩せる薬というイメージがついていますので、特にご興味を持たれる方が多いですね。
今回は防風通聖散の漢方的な背景は一旦おいておいて、現代における肥満症治療薬としての研究結果についてご紹介します。これを読まれたら、きっと飲む気が失せる方が多いかも?
1.動物実験の結果
防風通聖散は褐色細胞の活性化、脂肪細胞における脂肪分解促進、便への脂質の排泄増加、グレリンを介した食欲抑制などの効果があるという研究報告がありますが、私が調べたところではあくまで実験動物における結果です。しかも、実験動物にヒトが摂取する量の10倍くらいの濃度の防風通聖散を摂取させて出した結果なんですよね。たぶん、通常の濃度では実験として有意な結果がでなかったので、ここまでの濃度にする必要があったんじゃないかなあ、と邪推してしまいます。ひょっとしたら今後、脂肪分解促進をする物質が特定され新薬につながる可能性はありますが、ヒトが通常量の10倍の防風通聖散を飲むのは危険過ぎます。
実は、防風通聖散は漢方薬のなかでも副作用報告が多い部類のお薬です。特に肝機能障害は内服した方の1~2%に生じると言われていますので、定期的な血液検査は必須です。
2.ヒトでの有効性
とはいえ、防風通聖散を飲んだ患者さんの体重が減った、という論文がちらほらあるのは事実です。確かに痩せる患者さんはおられます。私の個人的感想としては、効果があるのは10人に2~3人くらいかな。
ここで、ナイシトールを出している小林製薬の中央研究所が出した研究論文があったのでご紹介しましょう。この研究では、BMI 26前後の患者さん23人(男性14人、女性9人)に同社の防風通聖散エキス錠を12週間摂取させて、体重や体脂肪率の変化などをみています。気になる結果を平均値でお示ししますと、体重は男性で76kg→72.8kg、女性で63.6kg→62.9kgになりました。女性も一応減っているように見えますが、統計学的には変化なしと評価される範疇です。また体脂肪率やウエストのサイズについても男性では減少が見られたものの、女性では変化がありませんでした。ただ、一点、内臓脂肪面積については男女とも減少が見られました。
この研究は対象がそもそも23人しかいないので、「防風通聖散は男性の方がよく効く」という結論にはなりませんが、効く人と効かない人がいる、ということはできると思います。
また、もう一つ注目すべきは、4ヶ月飲んでも体重が3kgしか減らなかった、という事実です。これは私が処方した実感と一致する結果です。しかも体重が減るのは初めの4週間が一番多く、8週間後からはほとんど変化がありませんでした。
体重を減らしたいと漢方薬を求める方の多くは10kgくらいの減量を期待されますが、防風通聖散単独では、決してそのような効果は得られないということをご理解ください。それと、もう一点強調したいのは、防風通聖散に限らず「薬で減った体重は薬をやめれば元に戻る」ということです。当たり前のことですね。
ここまでの話をまとめますと、「防風通聖散で3kgくらい痩せる人もいるよ。でも薬をやめると元に戻るよ」となります。飲み始めて2ヶ月くらいで体重が下げ止まる薬を、やめると体重が元に戻るからと続けている患者さんもおられますが、それでいいのかしら?と思います。
やっぱり体重コントロールには食事と運動。太らない食事と運動の習慣をつけることが一番大切です。そんなことはとっくにやっているという患者さんもおられますが、お話を聞くと間違ったやり方をしている方も多いです。薬を飲む前に一度ご相談いただければと思います。