アンチエイジング
2024.08.08

「老いるとは硬くなること」から考えるアンチエイジング

元ハードル選手の為末大さんが、テレビのインタビューで「老いるとは硬くなること」とおっしゃっていたのが、ずっと印象に残っています。

彼はアスリートですから、年齢とともに筋肉が硬くなり、パフォーマンスが悪くなることを実感されて言われたのだと思いますが、医学的にも本当にその通りだと思います。

年齢とともに筋肉のしなやかさが失われるのは、スポーツ選手でなくても実感するところですが、他にも関節が硬くなり、血管が硬くなり(動脈硬化)、頭が硬くなる。

こういった変化にどんなふうに対応していけばいいのか、漢方的な視点も含めて考えてみました。

 

体の硬さ

年齢とともに筋肉や関節が硬くなり、可動域が狭くなりますね。以前は立位体前屈で手のひらをぺったり着けられたのに、今は指先を着けるのがやっととか。

なぜこんなことが起こるのか、まず、筋肉の硬さから考えます。

筋肉の硬さには筋肉のなかの水分量が低下することが大きく影響しています。私の師匠がよく「スルメ化」という言い方をしますが、生のイカとスルメの水分量の違いを想像すると一目瞭然ですね。水が抜けると硬くなる。

ヒトの筋肉の75%は水分であり、水が減るとどんどん硬くなります。水が減る原因は筋肉の質や量が低下すること、あともちろん脱水も良くないですね。ちょっと話がそれますが、ヒトの体で一番水分を貯めているのは筋肉なので、筋肉量が少ない人は脱水を起こしやすくなります。夏に高齢者が熱中症で倒れるのは、エアコンを嫌うからだけでなく、筋肉量が少ないために水分を摂らないとすぐ脱水になってしまうからなんですね。

さて、体が水を保持できない状態を漢方では陰虚といいます。以前のコラムで実熱と虚熱について書きましたが、高齢者の熱中症は陰が少ないために起こる虚熱ということができますね。そして、年を重ねれば誰でも陰虚に近づいていきますが、ここをどれだけコントロールするかがアンチエイジングのキモになります。中医学では高齢者の陰虚は腎陰虚だから六味丸を飲む、というような話になりますが、そもそもは筋肉量の減少が始まりなのですから、「筋肉量を保つ」というのが根本的な対策になるでしょう。

つまりは運動とタンパク質摂取です。ストレッチやヨガは筋膜の緊張を緩めることで体を柔らかくする効果がありますが、筋肉量を増やすという観点からするとあまり効果的ではありません。筋トレと有酸素運動が大切です。そしてタンパク質については、ほとんどの方が「自分は大丈夫」と思っていますが、通院中の方で見ると足りている方はほとんどいません。標準的な成人女性であれば一食20gX三食のタンパク質摂取を目標にしましょう。

 

関節の硬さ

着替えをするときに肩が上がらなくて辛い、なんか分からないけど膝が曲がりにくい。年齢とともにそんな変化も感じやすくなります。関節の硬さの原因は、大きく分けると関節周囲の筋肉(靭帯)の問題か、関節の炎症(変形)のいずれかになります。

関節というと骨のことと思いがちですが、関節の可動域は周囲の筋肉によっても左右されます。関節を動かさない=周囲の筋肉が使われずに萎縮して関節が硬くなる、すると関節にかかる負荷が増えて痛みの原因になります。ここでも運動不足は影響してくるんですね。

関節の変形は更年期になると特に気になる問題です。女性ホルモン(エストロゲン)は関節にも作用しており、更年期に分泌が減ることで全身の関節のこわばりを感じやすくさせたり、滑膜炎を起こして関節を変形させたりすることがあります。このような場合は、エストロゲンを補充することで改善する可能性があるので婦人科に相談されるのも一つです。関節リウマチを心配して受診される方もいらっしゃいますが、関節リウマチは痛む関節の場所が違うので大抵は見分けがつきます。ただ、関節リウマチは更年期にも多い病気でもあるので、疑わしい場合は血液検査などを行なっていきます。

漢方的には関節の硬さには、瘀血や水滞、冷えが関与していることが多いので、これらをケアする漢方薬を用いますが、2-3ヶ月もするとほとんど気にならなくなる方が多いですね。整形外科ではエクオールを勧められることがありますが、漢方とエクオールを併用すると治りが早い印象を持っています。

血行を促すためにお湯の中で動かしたり、優しくマッサージすることも痛みやこわばりを緩めるのに効果があります。反対に避けていただきたいのはビールなどの冷たいアルコールです。これは水滞や冷えを悪くして痛みを悪化させることがあります。

 

血管が硬くなる問題についても書きたいのですが、だいぶ長くなってきましたので後編は乞うご期待ということでお願いします。