歳をとると色々と硬くなってきますが、健康年齢に一番影響するのは血管の硬さかもしれません。と言うのも、日本人の死亡理由となる病気、1位:ガン、2位:心疾患、3位:脳血管疾患のうち、心疾患と脳血管疾患の原因になるからです。
漢方には血管が硬くなるという概念はないのですが、大切なことなので今回取り上げますね。
血管は体の隅々まで張り巡らされ24時間休まずに血液を流していますから、歳をとればだんだんくたびれてくる、ということは想像しやすいですね。無理をかければくたびれるスピードが早まりますが、その一番の要因は「中から高い圧をかけられること=高血圧」です。高い圧によって血管の中に細かい傷ができると、そこにコレステロールが溜まって血管を硬くし、また内腔を狭くしていきます。また、血糖値が高い血液も血管の中の傷を悪くしていきます。この一連の過程が動脈硬化ですね。
メタボ検診では、高血圧、脂質異常症、糖尿病を主にチェックしていきますが、それはこの3つが相まって動脈硬化を進行させ、心筋梗塞とか脳梗塞とか、脳出血とかそういう病気を引き起こすからなんですね。
ちょっと話がそれますが、更年期の女性は女性ホルモンに低下によって脂質異常が進行してくることが多いです。ここで脂質を下げる薬を飲むのかどうか、という点はいつも患者さんと相談しながらですが、基本的に高血圧と糖尿病がなくて、ご家族に心筋梗塞とか脳梗塞の方がおられなければ、まずは運動と食事から、となるかなと思います。LDLコレステロールが140を超えると脂質異常症の病名がつきますが、160くらいまでは様子見にする先生が多いと思います。それは脂質異常だけではすぐに動脈硬化は進まないからです。
でも、例えばそこへ体重が増えてだんだん血圧も上がってきて、リスク因子が高血圧+脂質異常症の2つになると、動脈硬化が進んでくるのでちょっと放って置けないなという気持ちになってきます。血圧や脂質を下げる西洋薬を提案することもありますが、ここで患者さんが必ずおっしゃるのは「一度薬を飲んだら、もう止められないと聞きました」という懸念です。
そこで私がいつもご説明するのは「薬を飲んだから止められないのではなくて、血圧や脂質が上がった原因を自力で改善できる人がほとんどいないからそんなふうに言われるんですよ。運動や食事、減量によって血圧(コレステロール)が下がれば薬は止めることができます」ということです。これはある意味究極のアンチエイジングですが、年齢にあらがうのはまあまあな努力を要しますから、結局「薬を飲む方が楽」という方も結構いらっしゃいます。
あと、時々「血圧や脂質を下げる漢方薬はありますか?」と当院を受診してくださる患者さんがおられますが、これは一筋縄ではいかない話です。例えば、すごーくストレスがかかってそのために血圧が高い、という方の場合は漢方薬でなんとかなる場合もありますが、ご高齢ですでに動脈硬化が進んでいるような方の場合は漢方薬ではなんともなりません。直接的に脂質を下げてくれる漢方薬もありません。
また、反対に「そんなに長生きしたい訳ではないから、心筋梗塞になってもいいわ。だから薬は飲みません」という選択をされる方もいらっしゃいます。それはそれで個人の自由ですから、無理にお薬を勧めることはしません。でも、忘れてはいけないのは、血管は体中に張り巡らされているということです。心臓や脳の血管のような直接寿命の関わってくる血管以外にも、例えばお腹の中の血管とか、手足の先の血管も動脈硬化の影響は受けています。
よく「血の巡りが悪い」と言いますが、動脈硬化は確実に血の巡りを悪くし、内臓の働きを落としてきます。例えば歳をとって、昔より食べられなくなったとか、頻尿になったとか、便秘するようになったとか、手足が痺れるようになったとか、そんなことも動脈硬化が原因になっているかもしれません。こういった症状は漢方内科を受診する理由になりやすいですが、動脈硬化が原因になっているといくら漢方薬を飲んでも状態が安定しない。これらを瘀血と捉えて治療する試みもありますが、動脈硬化が進んでいるとやっぱり手も足も出ない、若返りの薬はない、そういうことになります。
動脈を柔らかくする(動脈硬化を改善する)西洋薬も今のところありません。高血圧、糖尿、脂質異常に陥らないのが基本的な予防方法ですが、血管をストレッチすると予防効果があるというデータも出てきました。血管のストレッチ?と思いますが、要は体を伸ばせば血管も伸びるという話。さあ、これを読み終わったら腕を伸ばして背中のストレッチを20秒、お願いします。