漢方豆知識
2020.06.15

ほてり

暑くなってきました。ぼくが一番苦手にしている季節です。この夏が苦手、そんな情報も漢方での診療にはとても重要なキーワードになります。

この「夏が苦手」は単に暑いからというだけではなくて、クーラーが苦手と言う場合もありますのでしっかりと聞かなければなりませんが、ぼくの場合は暑くて、夜が寝苦しい。足の裏が火照るので寝不足になりやすく、ずっと昔から苦手にしています。小学生の頃は足の裏が熱いので、ベッドの鉄のところに足の裏をくっつけたりしてました。随分と困っていた症状ですが、多分病気ではないので病院に行っても無駄だなぁ、と思っていました。実際、医師になって、このような症状で検査で異常がなければ、一般的な薬はないことを知りました。西洋医学では、本人が不快でも火照りそのものに対処できる薬はありません。

ところがこの「火照り」、漢方ではとても重要な所見です。学生時代、漢方を勉強し始めた頃、自分の夏の火照りの症状に漢方的な意味があったことを知って感動したのを今でも覚えています。

一体どんな理屈なのか、ここでは簡単に説明させて頂きます。

人の体は漢方の理論では陽気と陰気で構成されています。

陽気は体を温めたり、体や臓器を動かす働きをします。そして体や臓器、形あるものは全て陰気でできています。陰気は冷やすという側面もあり、陽気の熱の暴走をコントロールする働きもあります。

そして、陰陽のバランスが崩れた時、もし陽気が不足すると冷えに弱くなります(冷え性の多くの方がこれに属します)。反対に陰気が不足すると、熱感を感じます。この陰気の不足を漢方用語で「陰虚」と言いますが、この症状の特徴が「火照り」で、特に手のひらや足の裏を熱く感じます。陰虚の症状としてもう一つ有名なものは寝汗です。漢方の専門用語では盗汗(とうかん)と言います。ぼくの場合はここまでではないですが、火照りは陰虚の症状でした。

初めて自分の体質の理屈を知って腑に落ちました。もちろんそのための薬が漢方では用意されています。薬を飲むようになってからは、夜の火照りは随分と楽になっています。きっと今夜もお世話になりそう。

何気ない症状が漢方では重要なキーワードになる事があります。問診で変なことを聞かれると思われるかも知れませんが、どうぞお付き合いをお願いします。(拓也)